CTスキャンのしくみ

CTスキャンとは

電球のX線透過像

CTスキャンの仕組みを理解するためには、まずX線撮影(レントゲン)のメカニズムを知る必要があります。レントゲン撮影では、物体を透過する性質を持つX線を被写体に投射し、被写体の素材や内部構造によって起こるX線減弱の差をフィルムや半導体素子(検出器)を使って捉えることで、被写体内部を観察することが出来ます。

レントゲンは、対象物の構造をコントラスト差によって明らかにしますが、これは奥行きがない二次元情報であるため、立体構造を把握することは出来ません。そこで、X線源と検出器を被写体に沿って廻るようにし(医療用CTスキャナの場合。産業用CTスキャナはX線源と検出器が固定してあり、被写体が回転する。)、360度全ての方向からX線透過像をデジタルデータとして得て、コンピュータで処理することで三次元情報を得ることを可能にしたのが「CTスキャン」です。

電球のX線透過像
X線発生のしくみX線発生のしくみ

01. X線の発生

CTスキャンにおける最初のステップは、「X線の発生」です。X線はX線管(管球)と呼ばれる装置から生み出されますが、その内部は陰極と陽極が収納されており高真空に保たれています。まず、管球に電流を流すことで、陰極にあるタングステンフィラメントから熱電子を放出させます。

次に発生した熱電子を集束カップと呼ばれる部品で集束させ、管電圧によって加速(印加)します。最後に、加速させた熱電子を陽極側のターゲットマテリアルに衝突させることで、X線を生み出します。ターゲットマテリアルには、タングステンやモリブデンなどの非常に融解点が高い(タングステン融点 約3,400℃、モリブデン融点 約2,600℃)耐熱性がある、原子番号が高い金属がもちいられます。

これは、管球に入力したエネルギーのうち99%が熱へ変換されるため耐熱性が必要なこと、原子番号が高い金属がターゲットだとX線強度が高くなることが主な理由です。

02. X線の検出

X線検出器のしくみ

二番目のステップは、「X線の検出」です。被写体の内部を減弱しつつ透過したX線は、被写体を挟んでX線管に対して正対位置に設けられたX線検出器によって捉えられます。旧来のX線透過試験では、ハロゲン化銀などの感光性物質を使用したX線フィルムがもちいられてきましたが(現在ではデジタルフィルムも、もちいられています)、CTスキャナは半導体素子(フォトダイオード)で構成される検出器がもちいられます。CTスキャナでは1回の撮影において数百~数千枚の透過像を取得する必要があり、またメガピクセルサイズの高解像度デジタルデータを高速に取得・読み出すことが求められます。このため、検出器にはフォトダイオードを集積したCCD/CMOSイメージセンサが使用されますが、これらのセンサは紫外線、可視光、赤外線に加えて10 keV以下のX線の検出が可能な一方で、非破壊検査に使用される数十keV~100keVを超えたエネルギーを持つX線(硬X線)を検出することに適していません。

このため、X線を微弱な蛍光に変換するシンチレータ(CsI(TI)やGOSなどの無機結晶)を介すことで、硬X線検出を可能としています。このようなCMOSイメージセンサとシンチレータが組合わされた検出器を「フラットパネル」と呼びます。フラットパネルは他方式の検出器と比較して、感度や解像度、フレームレートが高く、広いダイナミックレンジを持ち、歪みがない画像が取得出来ることが特徴です。

X線検出器のしくみ
産業用CTスキャンのワークフロー産業用CTスキャンのワークフロー

03. 投影データからの画像再構成

CTスキャンの最終ステップは、「投影データからの画像再構成」です。管球から照射されたX線は、検出器との経路上にある検体に吸収されることで減衰します。このため、検出器のある点に到達するX線量は、検体の透過率分布を経路上において積分した値(投影)に比例します。この値は経路上における透過率の合計であるため、任意点における透過率は求めることが出来ません。

ただし、二次元空間において任意点を通過する全ての投影の値を得ることが出来れば、数学的にこの点の透過率を求めることが出来ます。CTスキャンでは検体(もしくは管球と検出器)を360°回転させることで、この問題を解決しています。つまりCTスキャンは検体全域の360°方向からの透過像を取得することが出来れば、検体の3Dデータを構築することが出来ます。